「地産地消」という言葉を耳にする機会がありますが、具体的に何がどう良いのか、メリットを聞かれたらすぐに答えられない人も多いのではないでしょうか。
地産地消は、消費者・生産者・地域社会・地球環境の4者にとってメリットのある取り組みです。
ただ「地産地消は良いこと」と思っていても、誰にとって何が良いのかを理解していないと、意欲的に貢献できません。
この記事では、地産地消のメリットやデメリット、成功事例や私たち消費者がすぐにできることを解説します。
最後まで読めば、地産地消となる行動が地域や環境にどう役立っているかが分かるので、ぜひ目を通してみてください。
地産地消のメリット
地域で生産したものを消費する「地産地消」には、消費者や生産者にとってはもちろん、地域社会や自然環境にとってもさまざまなメリットがあります。
ここでは地産地消のメリットを分かりやすく解説するので、ぜひ読んでみてください。
そもそも「地産地消」とは何か、定義や取り組みなどについてはこちらの記事で解説しています。
消費者にとってのメリット
地域や環境のためになるというイメージを持っている人もいると思いますが、消費者にとっても地産地消はメリットが大きいです。
生産者や地域のために取り組むことが、回りまわって消費者がより良い商品を手に入れることに繋がるため、地産地消のメリットを知っておきましょう。
新鮮な農産物が買える
地産地消で住んでいる地域の農産物を買えば、遠くの都道府県や外国産のものよりも新鮮なものが手に入ります。
肉や魚・野菜など、生鮮品はできるだけ新鮮なものを買いたいですよね。
産直市場など地域の販売店では、近くで生産したり獲ったりしたものをすぐに運んでいるため、輸送距離が短く、鮮度が落ちません。
朝採りの野菜や獲れたばかりの魚といった鮮度の高いものは、おいしいだけでなく栄養価も高いので、消費者にとっても嬉しいメリットです。
「顔が見える」安心感がある
地域で生産されたものを買えば、誰が作っているかが分かるので安心感があります。
口に入れる食べ物や肌に触れる衣料品などはとくに、誰がどうやって作ったものなのかが分からないと不安です。
生産者の「顔が見える」ものを買うことは、消費者にとっても安心・安全を感じられる材料になります。
食と農への理解が深まる
地産地消を意識することで、消費者は食と農についての理解を深められます。
地域の名産品に興味を持てば、農産物が誰によってどのような方法で作られているのかが分かり、地域で伝承されている食文化についての知識も身につけることが可能です。
「こんな調理の仕方をしたらおいしいよ」「これは○○年続いてきた製法で作ってるんですよ」と生産者から教えてもらうなど、直売ならではの発見もあるでしょう。
生産者にとってのメリット
地産地消は、生産者にとってもメリットが大きいです。
生産者側の立場を知ることで、地産地消に対してより意欲的に取り組めるので、消費者である私たちも生産者にとってのメリットを理解しておきましょう。
リアルな消費者ニーズが掴める
生産者が地産地消に取り組めば、卸業者を挟んでいては分からなかった消費者の声を聞けます。
「もう少し数が少ないものはないですか?」「新鮮なジュースなんかもあったらいいのになぁ」など、消費者と直接関わることで、ニーズを掴めるのです。
需要に見合った効率的な生産ができるだけでなく、新商品のヒントなども得られるかもしれません。
流通コストを抑えられる
地産地消に取り組めば、生産者は流通コストを抑えられます。
流通コストが少なくなれば当然利益も増え、収入アップや新たな設備投資などにも活かせるでしょう。
流通コストの削減は、生産者が安定して生活できるだけでなく、新規事業・商品の展開や後継者問題などの改善などにもつながります。
不揃い品も売れる
生産者が直接消費者に売ることで、細かな傷があったり不揃いだったりする「ワケあり商品」なども販売できます。
スーパーなどに卸すものは、見た目がきれいでないと納品できる基準を満たせません。
小さすぎるものや少量品なども売れれば廃棄が減り、生産コストに対する利益が上がるため生産者側は助かります。
経済や地域社会にとってのメリット
地産地消は、消費者や生産者にとってだけではなく、地域全体の活性化にも役立つ取り組みです。
ここでは、経済面や地域社会にとって地産地消がどのようなメリットを生むのか解説します。
地域経済が活性化する
地産地消で売り買いが発生すれば、地域内だけで経済が回ります。
地域内の消費量が上がれば需要も増え、供給を増やすことで地域全体が活性化するため、良い経済循環ができるのです。
産直市場以外のスーパーなどにおいても、地域の農産物コーナーを作ることで、新鮮な食材がほしい消費者を一定数確保できるメリットがあります。
新たな雇用が生まれる
地域全体で地産地消に取り組むことで生産者に経済的余裕ができれば、新たな雇用も生まれます。
働き口がないと、労働力の高い20~50代が外に出ていき、地域全体が廃れてしまうかもしれません。
消費者が地域の農産物などを求めて需要が増えれば、供給を増やすために新たな雇用が生まれ、結果として地域全体が活性化します。
観光面での魅力になる
地産地消で地域全体が盛り上がっていれば、PR活動に利用でき、観光面での魅力になります。地元の食材をふんだんに使った飲食店や旅館があれば、観光に来た人たちは利用したいと思うでしょう。
観光業が上手くいけばニュースなどで取り上げられる可能性があり、地域や町全体が盛り上がります。
食育が進む
地産地消への取り組みは、子どもの食育にも効果的です。
学校給食や、家庭での食事で地域の農産物が使われていれば、自然と地元愛も生まれ、地域の食材に愛着をもって育ちます。
地元の食材と密に関わった子どもが大きくなり、新たな家庭を築けば、その地域の食文化や名産品を大切に思える子どもが育つでしょう。
環境にとってのメリット
地産地消のメリットは人々にとってだけではなく、自然環境にもあります。
ここでは、自然や地球環境にとって地産地消がどう影響するかを解説するので、ぜひ知ってみてください。
燃料や二酸化炭素の量を削減できる
地域内で生産と消費が完結すれば、遠くへ輸送する必要がなくなり、燃料や二酸化炭素の排出量を減らすことが可能です。
二酸化炭素排出量の削減は、地球温暖化や異常気象などを防ぐほか、貴重な資源を守ることにもつながります。
フード・マイレージが下がる
地産地消に取り組めば、「食品の輸送量×移動距離」で環境負荷を示す「フード・マイレージ」が下がります。
日本は食料自給率が低く、多くの食品を海外からの輸入に頼っており、先進国のなかでもフード・マイレージが高いです。
フード・マイレージが高い=環境に大きな負荷をかけているため、地産地消に取り組んでフード・マイレージを下げることは、地球環境を守る点で大きなメリットとなります。
地産地消のデメリット
地産地消への取り組みは、残念ながらメリットだけではありません。
地産地消をきちんと理解してもらうために、ここではデメリットも分かりやすく解説します。
消費者側:価格が高い
地産地消への取り組みによる消費者側にとってのデメリットは、地域で販売される農産物が高いこともある点です。
流通コストが下がる分安いものもありますが、小規模な農家などが作っているものは手間がかかっており、スーパーに並ぶ大量生産のものより高い商品もあるでしょう。
地元のものだけで生活するのは厳しい場合もあるので、地産地消を無理のない範囲で上手に取り入れることが大切です。
生産者側:生産以外の努力が要る
生産者側にとってのデメリットは、地産地消に取り組むことで純粋な生産能力以外も求められることです。
生産さえ上手くできれば卸業者や小売店に販売を任せられる場合と違い、品質管理や広告宣伝、売り方の工夫など、生産者がすべて考えなければなりません。
流通販売や経理の知識も要るほか、やることが多くて人件費が上がる可能性もあり、手間に対しての収益が確保できるとは限らない点がデメリットと言えます。
地域社会:地産地消に取り組みにくい地域もある
地産地消のデメリットとして、地産地消に向いていない地域があることも挙げられます。
土壌や気候などの問題で、農産物や衣服の原料などが育ちにくい地域もあるでしょう。
消費者からの需要が多いものを生産できない場所では、地産地消で地域全体を盛り上げることはむずかしい場合もあります。
地産地消とSDGsの関係性
地産地消は、世界で取り組まれている「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」とも関連性が深いです。
17個挙げられているゴールのうち、以下とはとくに密接な関係があります。
- ゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
- ゴール13「気候変動に具体的な対策を」
- ゴール14「海の豊かさを守ろう」
- ゴール15「陸の豊かさも守ろう」
地域内で生産と消費を完結させ、海外や遠くの都道府県からの輸送を減らす地産地消は、環境を守るための取り組みでもあります。
地産地消の成功例
ここでは、地産地消の優良事例として農林水産省から賞を得ている取り組みをご紹介します。
地産地消の成功事例を知って、具体的なイメージを掴んでみてください。
生産者の例:紀の里農業協同組合(和歌山県)
出典:めっけもん広場
和歌山県の「紀の里農業協同組合」は、複数の農家が集まって運営するファーマーズマーケット「めっけもん広場」をオープンし、地元農産物の生産拡大をすすめてきました。
組合が約1,600人の生産者をまとめ、規格外品の販売を行ったり、積極的に学校や地域企業と関わったりしています。
学校給食のために農産物や米を出荷しており、給食に使われている地元農産物の割合は80%を超えているそうです。
食品産業の例:株式会社金トビ志賀(愛知県)
出典:株式会社金トビ志賀
愛知県にある製麺・製粉企業「株式会社金トビ志賀」は、観光都市である蒲郡市が新たに開発したご当地グルメ「ガマゴリうどん」の製作プロジェクトに関わりました。
ガマゴリうどんは、愛知県産の小麦「きぬあかり」使用の麺と、蒲郡で獲れた海の幸をふんだんにのせたひと品です。
ガマゴリうどんが蒲郡市の新名物になったほか、金トビ志賀ではきぬあかりの開発をきっかけに国産小麦100%の商品も開発し、順調に売上を伸ばしています。
学校給食の例:立山町学校給食センター(富山県)
富山県にある「立山町学校給食センター」では、2007年度から学校給食における地元農産物の活用を開始しました。
子どもたちが楽しんで給食を食べられるよう、生産者や郷土料理の伝承人を講師に招いたり、地元の食材を活用して栄養教諭に食育指導をしたりもしています。
生産者の安定的な納入先を確保しただけでなく、子どもたちが地元の食材や生産者を身近に感じるようになり、食育にも大きく貢献している取り組みです。
地産地消に向けて私たちができる取り組み
地産地消は、消費者と生産者の人々両方が取り組んで初めて成り立つものです。
ここでは、消費者ひとりひとりがどのように取り組めるのか、今日からすぐにできることをご紹介します。
地元で作られたものを買う
地産地消に貢献しやすいのは、地元で作られたものを買うことです。
地元で作られた農産物や、地域の伝統工芸品など、その場所で作られたものを手に取ってみましょう。
近くにスーパーしかない場合でも、意識して食品の産地を見るだけで地産地消への第一歩を踏み出せています。
産直市場や道の駅などを利用する
近くに産直市場や、地元の名産品を置いている道の駅などがあれば、積極的に足を運んでみてください。
地元の新鮮な農産物を買えるほか、「私の地元ではこれを作っているんだな」と地域のことを知る機会も作れます。
生産者と直接会話できれば、栄養やおいしい食べ方、知らなかった品種などについても教えてもらえるかもしれません。
国産や近隣県のものを選ぶ
地産地消に取り組みにくい地域に住んでいる場合など、どのように貢献すればいいのか分からない場合は、ひとまず産地を確認して近くのものを選びましょう。
東京に住んでいるなら関西よりも関東のもの、四国に住んでいるなら東北よりは関西や九州のものを選ぶなど、少しでも近い都道府県のものを選ぶと良いですよ。
細かい産地が分からない商品の場合は、国産のものを買うだけでもフード・マイレージ低下につながります。
地産地消のメリットを理解してできることから取り組もう
ここまで、地産地消のメリットとデメリット、具体的な成功事例やすぐに取り組めることをご紹介してきました。
地産地消を考えることは、消費者・生産者・地域・環境の4者にとってメリットがあります。
産直市場や道の駅が近くにあるか調べる、スーパーでも産地を確認するなど、私たちひとりひとりが地産地消のためにすぐに取り組めることは意外とあるものです。
無理なく取り組める範囲でよいので、まずは明日買い物に行くときに、「どこで作られたものなのだろう」と意識することから始めてみてください。