ビジネスや政治でよく使われる「サイレントマジョリティー」という言葉を知っているでしょうか。
2017年に、アイドルの欅坂(けやきざか)46が歌う曲のタイトルになり話題となったので、「言葉は聞いたことがあるけれど意味までは知らない」という人も多いかもしれません。
サイレントマジョリティーとは、「積極的に発言はしない多数派」の人々を指します。
サイレントマジョリティーの存在を知らないと、企業のマーケティング担当者や政治家はもちろん、私たちが暮らしていくなかでも偏った情報を仕入れてしまうかもしれません。
この記事では、サイレントマジョリティーの意味や使い方、具体例などを紹介します。サイレントマジョリティーが重要視される理由も解説するので、情報の選び方を知りたい人はぜひ読んでみてください。
サイレントマジョリティーの意味
最初に、サイレントマジョリティーの意味を解説します。
定義や語源をまとめたので、何をきっかけに広まった言葉なのかを知ってみてください。
定義
サイレントマジョリティー(silent majority)とは、積極的に発言することはない多数派の人々を指します。
たとえば、歌手のファンクラブに入ったりファンレターを出したりしないファン、YouTubeでチャンネル登録やコメントはしないけれどいつも動画を観ている視聴者などのことです。
サイレントマジョリティーは「静かな大衆」「物言わぬ多数派」「声なき声」などとも呼ばれ、発言はなくても確かに多く存在しています。
語源
サイレントマジョリティーという言葉の始まりは、ベトナム戦争中だった1969年。当時アメリカ合衆国の大統領であったリチャード・ニクソン氏が演説で使ったのがきっかけと言われています。
長期化していたベトナム戦争に対して反発が起きていたものの、即時撤退するには国にとってのデメリットもあったため、ニクソン氏は段階的な撤退を考えていました。
ニクソン氏は演説のなかで、「沈黙している大多数の人々=サイレントマジョリティーは今の状態を見守り、支持している」と主張します。
即時撤退をしろと声を上げているのは少数派=マイノリティであり、大多数の国民の意見は違うはずだと、サイレントマジョリティーという言葉を使って示したのです。
声を上げない理由
サイレントマジョリティーが声を上げない、積極的に行動しない理由は、「声を上げない今の状態でもとくに問題ない」と感じているからです。
サイレントマジョリティーは、毎月出るコンビニスイーツを楽しみにしていたとしても、気づけば新商品が店頭に並ぶため、本社に「おいしいです」と感想を送ることはありません。
反対に初めて訪れた店の接客に不満があっても、「わざわざ文句を言わなくても、次は別の店に行けばいい」と考えます。
サイレントマジョリティーは、現状のままで満足、もしくはほかにも選択肢が豊富なため、声を上げる必要性を感じていないのです。
販売者やサービスの提供側は、サイレントマジョリティーの意向を把握できていないと、良いサービスを取りやめてしまったり、改善すべき要素を発見できなかったりします。
コンテンツの良し悪しを正しく知るには、声を上げている少数派だけでなく、サイレントマジョリティーの分析が重要です。
サイレントマジョリティーが意味することの反対語
サイレントマジョリティーの対義語は、「ノイジーマイノリティー(ラウドマイノリティーとも言う)」や「ボーカルマイノリティー」です。
ここでは、サイレントマジョリティーと反対の意味を持つ言葉を解説します。
ノイジーマイノリティー(ラウドマイノリティー)
ノイジーマイノリティーとは、「声高に自分の意見を主張する少数派」を指します。ノイジー(noisy)にはうるさい、やかましいなどの意味があり、必要以上に騒ぎ立てるだけのマイノリティを批判する場合に使われることが多いです。
ノイジーマイノリティーの例としては、子どもの学校に不当な文句をつける「モンスターペアレント」や、過剰な批判や抗議をする「クレーマー」などがあります。
SNSなどで悪い意見が広まると、サイレントマジョリティーまでもが離れていく危険があるため、経営者やサービス提供者はノイジーマイノリティーを無視できないのが現状です。
ボーカルマイノリティー
ボーカルマイノリティーも、声高に意見を主張する人々を指します。意見を積極的に発言するという点はノイジーマイノリティーと共通しますが、ボーカルマイノリティーは誹謗中傷したり騒ぎ立てたりはしません。
ボーカルマイノリティーは、「自分の意見をしっかり主張する人」という中立な意味で使われることが多い言葉です。
しかし、たとえば「自分の性は女性だ」と主張する男性の身体で生まれてきた人が、女性の競技枠でオリンピックに出ると、筋肉量や身長など、女性の身体よりも有利となります。
主張を認めることでほかの人の権利を奪うかもしれず、「ボーカルマイノリティーはまったく問題がない」とも一概には言えません。
マイノリティについてはこちらの記事でも解説しているので、あわせて読んでみてください。
サイレントマジョリティーの意味が分かる具体例
サイレントマジョリティーは、主にマーケティングや政治などにおいて使われます。
ここではサイレントマジョリティーの具体例を紹介するので、どのように用いられる言葉なのかを知ってみてください。
マーケティングにおけるサイレントマジョリティー
マーケティングにおけるサイレントマジョリティーとは、「積極的に感想・意見を言わない多くの消費者」を指します。
以前は、街頭アンケートや電話のヒアリングで直接関わったり、消費者側が「生産者側に気持ちを伝えよう」と確かな意思をもって手紙を送ったりしなければ、消費者の声を聞くことは困難でした。
しかしSNSが普及した近年では、消費者側が作り手に届ける意思をもたなくても、商品名などで検索すれば「○○っていうお菓子がおいしかった」という評価を見ることが可能です。
サイレントマジョリティーのふとした「つぶやき」からニーズを把握しやすくなり、マーケティング担当者が戦略を立てやすい時代になったと言えます。
ただし、SNSを活用している層がサービス利用者の主要層とは違う場合もあり、意見に偏りがある可能性も忘れないことが重要です。
政治におけるサイレントマジョリティー
政治におけるサイレントマジョリティーには、「有権者における物言わぬ多数派」といった意味があります。
政治に無関心で投票に行かない有権者や、とくに理由もなく前回と同じ党に票を入れる人もサイレントマジョリティーだと言えるでしょう。
マーケティングの場合と違い、政治においては「国に不満があるならサイレントマジョリティーになるな」と批判的な意味合いで使われることもあります。
サイレントマジョリティーに関する課題
ここでは、サイレントマジョリティーに関する課題を紹介します。
サイレントマジョリティーやノイジーマイノリティーという言葉を知った結果、ひとりひとりができることは何かを考えてみてください。
サイレントマジョリティーの存在が無視される
マーケティングや政治はもちろんですが、日常においても、サイレントマジョリティーとその反対語であるノイジーマイノリティーをどう捉えるかは重要です。
たとえば、たくさんリピーターを抱えている飲食店が、有名な芸能人1人にSNSで批判されたケース。
背景やいきさつを知らずに芸能人の批判を鵜呑みにすると、SNSを見た消費者にとっては好みの飲食店だったかもしれないのに、「あの店は良くないんだ」と認識します。
ノイジーマジョリティーの意見をそのまま受け入れると、自分にとっての良いものを見逃したり、反対に悪いものを良いと信じ込んでしまったりして、自らのためになりません。
ノイジーマイノリティーの声に捉われず、公平な判断をすることや、人の意見に左右されず自分の意見をもつことが大切です。
必ずしもSNSで拡散されていること=多くの人が支持していることではないため、サイレントマジョリティーの存在を思い出し、情報の選び方には気をつけましょう。
自分がサイレントマジョリティーになる
もうひとつの課題は、そもそもある事柄について肯定も否定も示さない、サイレントマジョリティーが多いことです。選挙や新商品など、声を上げる人が少なければ、生産者側・運営側はよりよい方向に舵を切れません。
良いと思ったら何かしらの反応をする、改善すべきと思ったら理由とともに伝えるなど、ひとりひとりが積極的に行動することで、日本、ひいては世界の活性化につながります。
物事を発展させるには、ときにはサイレントマジョリティーでいるのをやめ、建設的な意見を出すことも重要です。
サイレントマジョリティーの意味を知り、声なき声にも耳を傾けよう
ここまで、サイレントマジョリティーの意味について、定義や語源、使われ方や課題などを解説してきました。
私たちは、主張をしている人々が正当な訴えをしているのか、ただ騒ぎ立てているだけのノイジーマイノリティーなのか、情報をしっかりと精査することが大事です。間違っても炎上や誹謗中傷に加担しないよう、SNSの使い方・付き合い方にも注意しましょう。
意見を言わないサイレントマジョリティーがいると知るだけでも、「この考えは本当に多くの人が思っていることなのだろうか」と冷静に考えることができますよ。